わたしにとって、感情のはじめの一歩はことばだった。音でも色でもなかった。 
ことばが読めるようになった瞬間の記憶。 
ドリルを解いていくように、読める字がひとつひとつ積み重なっていったんじゃなくて、そのとき唐突に、意味をともなったことばとして、認識できるようになった。 
自己神話なのかもしれない、ただの妄想だと思うようになっていたけれど、母の記憶にもあるそうだから、けっきょくわたしは初めからことばしか使えないんだなぁ... 

その華やかさに、音や絵にどうしても憧れてしまうんだけど、わたしにはだめみたい。好きでいることしかできない。 
でもそのことばにしても、結局ことば遊びしかできない。語るべき物語を持たない。どこにも行かない、完結した止まった世界を並べ替えて遊んでいるだけ。まるで箱庭。 
「それで生きていきたいわけじゃないなら、いいじゃない」 
と言うけれど、本当は何かを創りながら歩いていたいんだよ。 

とりあえずのタイム・リミットが目の前に引かれた。でもやめたくないなぁ...どこにも行けない気持ちを、もどかしく思うことを。 
目を閉じて、思い浮かべて、触れるの。どんな色をしている?どんな形? 
綴るということばが好き。愛情と手間で編み上げられた目のよう。